「照明を落とせば見栄えが悪くなるのではないか」「冷蔵・冷凍庫は温度を変えることができない」など、商業施設における省エネ対策に頭を悩ませている事業者は多くいます。
照明や空調、商品管理など、お客様の利便性と利益の双方を考慮しながらの省エネ対策にはどのようなものがあるのか、事例をあげながら説明します。
店舗や事業所、オフィス兼店舗など商業施設において省エネ対策や節電対策を実行していくうえで、注意すべきポイントがいくつかあります。
たとえば空調設備は消費電力が大きく、照明設備や家電製品、機械設備の利用状況によっても電力消費量が異なるでしょう。
店舗や商業施設によっては空調設備の温度調整や照明の利用法の工夫を行って省エネ対策を進められる一方、冷蔵庫や冷凍庫など業務上必要な電気機器もあり、どのような設備の電力使用を抑えながらエネルギー消費単価をマネジメントしていくのか、部門や施設、利用者の傾向ごとに考えることが大切です。
商業施設はビジネスの場として重要な拠点になる場所であり、闇雲に省エネ対策や節電対策を進めたとしても、結果的に売上が下落したり利用者からの評判が悪化したりすればトータルで考えてマイナスが増大してしまいます。
省エネ対策や節電への取り組みによって余分なコストを削減し、エネルギーの消費を抑えることで地球環境にも配慮することができますが、あくまでも事業性を損なわないように注意しながら取り組み方を考えなければなりません。
商業施設内の温度管理を行ったり湿度調節を行ったりする空調設備は、様々な電気機器や設備の中でも特に消費電力量の大きなシステムです。そのため空調設備の適切なコントロールは省エネ対策として有効ですが、利用者や従業員の快適性を損なってしまっては逆に利益性が低下してしまいます。
快適性を悪化させない範囲で、省エネ対策や節電対策をプランニングしていくことが重要です。
空調設備のクリーニングを行っていなければ、空気の吸い込み口がホコリやゴミによって塞がれてしまい、空調効果が著しく低下してしまいます。
空調効果や空調効率が低下した状態で目的とする温度管理を実行しようとすると、それだけ空調設備に負荷がかかって余計な電力を消費してしまいます。
そのため、空調設備の省エネ対策を考えるうえで、まずは設備のクリーニングを行うことが簡単かつ即時的に効果を得られる節電方法です。
空調設備の設定温度について、適切な温度設定を改めて検討することも有効です。季節や時間によって暑かったり寒かったりと気候条件が異なるうえ、店舗の構造や窓の配置、店内にある売り物や業種などによって室温への影響が変わってきます。そのため、自社にとって適切な条件を考えながら設定温度の見直しを行わなければなりません。
また、その際はあくまでも快適性を損なわないように注意しましょう。
古くなっている空調設備は空調性能が劣化しやすくなっているうえ、そもそも省エネ機能があまり優れておらず、コストパフォーマンスが下がってしまう原因にもなります。
そのため、状況によってはエアコンを省エネ機器に買い替えるなど空調設備の抜本的な更新も省エネ対策として有効です。ただし新しい設備の導入にはイニシャルコストが発生するため、耐用年数やランニングコストとイニシャルコストとのバランスを見極めながらプランニングしてください。
空調制御システムとは、プログラムや人工知能(AI)があらかじめ設定されている条件に従って自動的に温度・湿度の管理や空調設備の制御を行ってくれるシステムです。
空調制御システムを導入することで無駄な空調の利用を抑制できるうえ、消費電力量の大きさに合わせて空調温度の自動調整などを行ってもらうことができます。
空調制御システムは省エネ空調機器と併用することで、コントロールの精度を高めて省エネ効果を追求していくことが可能です。
照明設備もまた空調設備と同様に、商業施設において電力消費量を増大させる理由の1つとなります。一方、照明設備を使わない施設や店舗は薄暗くなってしまうだけでなく、照明設備を単なる明かり取りとしてだけでなくプロモーションとして利用している場合もあるでしょう。
そのため、照明設備の省エネ対策・節電対策では多角的な取り組みによって無駄の解消を進めていくことが大切です。
空調設備と同じく、照明設備や照明器具においても日常的なクリーニングやお手入れが省エネ対策として有効です。
たとえばライトで周囲を照らす照明器具があるとして、ライトのカバーなどが汚れていれば同じ電力消費量でも得られる光量は低下してしまいます。また、ホコリやゴミが照明器具に接触することで、場合によっては火災のリスクになってしまうことも見逃せないポイントです。
照明設備の省エネ対策を考える中で、無駄に使用されている照明設備がないか意識しておくことも重要です。
ついつい電気を明るいままにして部屋を出るなど、照明や電気の無駄づかいは日常的に行われかねない省エネ対策におけるリスクです。
部屋を出る際は電気を消す、明るすぎる場所があれば照明の強さをコントロールするなど、無駄な照明設備についてもチェックしておきましょう。
一般的な白熱電球や蛍光灯よりも、発光ダイオードを利用したLED照明はより小さな電力で明るい光を得られることが特徴です。そのため、各所の照明器具をLED照明へ切り替えることで積極的な省エネ対策を進めることができます。
ただし、LED照明への切り替えや移設には照明本体の購入費や設置工事費といったイニシャルコストが発生します。そのため、LED照明への切り替えによって削減できるコストと導入コストのバランスをシミュレーションすることが大切です。
ショッピングセンターや店舗ビル、大型施設などエレベーターやエスカレーターといった昇降機・移動機器を導入している商業施設も少なくありません。昇降機にはモーターや照明器具など様々な電気製品が活用されており、消費電力も規模に比例して大きくなります。そのため効率的な運用法を確立させることで省エネ対策・節電対策を検討していくことが重要です。
商業施設の規模によっては複数台のエレベーターを導入していることも少なくないでしょう。しかし、常に全てのエレベーターが稼働していては、無駄な消費電力がどんどんと蓄積されてしまいます。
施設の営業時間や利用客の人数など、状況に応じて稼働させるエレベーターの数量をコントロールすることがポイントです。ただし、エレベーターの稼働率を悪化させすぎて利用者の不満を強めないよう適切なバランスを見極めなければなりません。
エスカレーターの速度はモーターなどによって制御されていますが、移動速度が速ければ速いほどモーターのパワーも必要になり、それだけ消費電力も大きくなります。そのため、エスカレーターの速度を調整して移動時のコストバランスを適正化することで省エネ対策を進めることが可能です。
また、エスカレーターの速度を適切に見直すことで利用者の安全性に関して改めて考えられる点も重要でしょう。
百貨店やデパート、ショッピングセンターのような大型商業施設における各部門を例として、省エネ対策や節電方法の具体的なポイントを解説します。
商業施設において物販部門は事業の中心であり、エリアの面積や規模も最大になりやすい部門です。そのため、物販部門の省エネ対策を考えることは、商業施設全体の低コスト化や省エネ化を進めるうえで有効となります。
物販部門ではまずエリアごとの空調管理や照明設備の省エネ化を検討することが重要です。また、採光用の窓を効果的に利用して昼間の照明使用率を低下させるといった方法も効果的です。
なお、季節によって温度管理のプランを見直し、取り扱っている商品に合わせた温度調整を検討することも有効でしょう。
食品部門では空調設備や照明設備の他にも、冷蔵庫や冷凍庫、水槽といった様々な電化製品や電気設備が稼働しています。そのため、温度設定の見直しや調整を行える場所と、設定を変更しては食品の鮮度や安全性に影響する場所とを、最初にきちんと区別しておくことが欠かせません。
また、食品部門は時間帯によって利用客の人数が大きく変動しやすい場所でもあり、時間帯や店内の利用状況に合わせて空調設備のコントロールが行われるよう空調制御システムを導入するといった方法もあります。
飲食店では快適性を維持することは当然として、効果的な照明設備の運用も大切です。照明設備は単に明るさを確保する手段でなく、飲食店のイメージアップや店内の雰囲気づくりにも活用されます。
また、バックヤードの倉庫の電気をこまめに消したり、冷蔵庫や冷凍庫の温度設定を見直したりと、利用客へ直接的に影響しない範囲で積極的な省エネ対策や節電対策を進めていくことも大切です。
その他、在庫管理を適正化することで冷蔵庫や冷凍庫の省電力を抑えられるうえ、フードロス問題の改善にもつながります。
事務所やビルのコントロールルームなど、管理部門の省エネ対策も考えなければなりません。事務所の空調温度を調整したり、クールビズやウォームビズを取り入れて空調設備に頼らない温度管理や快適性の追求を進めたりするといった対策は重要です。
また、トイレやロッカールームに人感センサー付きの照明を取り入れることで、使用者がいない間に無駄な電気が使われるリスクを軽減することができます。
駐車場は形態によって使用する電気設備が異なります。地下駐車場であれば空調設備や照明設備が必要であり、立体駐車場であればエレベーターや階段の照明設備などが必要です。またゲートや監視カメラといった業務上不可欠な設備もあります。
ただし基本的に大きな電力消費は空調設備や照明設備となるため、省エネ対策や節電対策として考えるべきポイントが限定的であることも特徴です。
その他、構造を工夫して換気性を高めることで、二酸化炭素濃度の管理なども行いやすくなります。
省エネ対策は企業によって様々な特色があります。規模の大きい企業では「照明やプラスチック(レジ袋)だけ」と限定するより、輸送やリサイクル、清掃活動や森林再生など、会社全体で省エネを推し進めています。
環境に優しい農法で栽培した商品を販売したり、夏の冷房費を抑えるためのクールビズ商品を販売したりしているイトーヨーカドー。他にも、食品の包装を簡単なものにし、回収した食品トレーの再利用も実施しています。
サミットでは「2050年までにCO2排出量実質ゼロ」を目指し、様々な省エネに取り組んでいます。中でも注目したいのは、店内で野菜の生育から収穫・販売までを行うシステム。他にもトラックによる輸送やプラスチック、店舗内の設備(冷蔵庫・冷凍庫)に関するものもあります。
イオンでは、現在の生活が環境に優しい未来につながるよう、地球温暖化の要因である二酸化炭素の排出を抑えるべく、脱炭素社会を目指しています。2025年には再生可能エネルギーの使用100%を目指して邁進。
様々な環境保全活動を行っており、植樹や美化活動にも力を入れています。イオンが取り組んでいる具体的な事例を紹介いたします。
ヤオコーは、リサイクル資源を小さく圧縮するリサイクル施設を自社で保有しています。普通なら廃棄される食材の切れ端も加工品へ。 具体的にどのような取り組みがされているのか、対策事例をあげてご紹介いたします。
大阪府堺市にあるショッピングモール・アリオ鳳では、店舗内のトイレへLEDを設置する、さらにセラミックハライドランプの導入、コンパクト蛍光灯を導入するなど、店舗内においてさまざまな形で省エネに取り組んでいます。不要な明るさを削り適切に照明を配置することによって、商業施設において大切な要素である「明るさや賑やかさ」と「省エネ」を両立。アリオ鳳ではどのような取り組みを行って省エネを実現しているのかを紹介していきます。